「冷たい熱帯魚」「恋の罪」

 長く気になっていた園子温監督の作品に挑戦しようと、この2作を選んで観てみたが、現在のところ、自分にはよく分からなかった。「愛のむきだし」「ヒミズ」あたりはまだ気になるのでいつか挑んでみたいけれど……。

 あと、どうやら自分は神楽坂恵の演技があまり好きではないらしいことが分かった。「恋の罪」の最後の最後あたりは良く見える瞬間もあったけれど、基本的に演技が自然と入ってはこなかった。

 

 どちらかといえば「冷たい熱帯魚」の方がまだ自分なりの観方ができた。圧倒的で醜悪な暴力によって追いつめられた主人公が形勢を逆転した瞬間、自分の中で生まれる爽快感に気づかされる映画かなと思った。終わり方も納得できた。

 良いなと思ったのは、吹越満とでんでんの演技。もはや台本があるとも思えなかったし、二面性にも説得力があった。

 あと、浴室で愛子の体から立ち上る湯気に生き物の温度が感じられてハッとなった。

 

 「恋の罪」。音楽は良かった。

 どんなに狂気に満ちた光景を目の前にしてもずっとひとりで大笑いしていたカオルが、なぜあの場面に限って突然怯え始めたのかが理解できなかった。

 カフカの「城」を読めば少しは分かるのだろうか。東電OL殺人事件についてちゃんと調べればもっと読み解けるんだろうか。 

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恋の罪 [DVD]

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「サマリア」

 たいへん良かった。キム・ギドク監督の作品は「春夏秋冬そして春」を観たことがあったことに後から気づいたが、この「サマリア」をもっと早く観ていれば、監督への評価もだいぶん違っただろうなと思わされるくらい、いい作品だった。2004年、第54回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞している。

 

 ヨジンとジェヨンという女子高生2人が、旅行費用のために繰り返している援助交際から物語は始まる。視点はジェヨンとその父親ヨンギの2段階をふむが、スポットが当たる登場人物はヨジン、ジェヨン、ヨンギと3段階に推移していく。シナリオも実際に第3幕まで区切られている。

 ヨンギにスポットが当たり、物語も終盤に達する頃には、「なぜこんなことになったんだっけ」と振り返りたくなる。3人それぞれの狂気によって、それくらいダイナミックに物語は動いていくし、その場面、場面に食いついて観てしまう力のあるシナリオだ。軸となる登場人物は少ないにも関わらず、これほど「遠くへ来た」と感じる映画はあまり覚えがない。感心した。

 

 ラストシーンが非常に良かった。ジェヨンがたどたどしい手つきで運転する車を俯瞰するカットなどは、未熟さや頼りなさがとてもよく表れていて、胸が締め付けられた。あの別れ方も素晴らしい。映画史に残るラストシーンとして選ばれていいと思う。その場面に流れる音楽も非常に美しく、心に残った。

 ヨジン役のカク・チミンとジェヨン役のハン・ヨルムがいずれもあどけなく、非常に魅力的だった。

 「サマリア」というタイトルにも考えさせられた。「善意から相手を救おうとし、自分にできる最善を尽くして失敗に終わっても、罪には問われない」という「善きサマリア人の法」から取ったのだろうか。 

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「君の名は。」

 話題作として気になっていたし、期待もしていた映画だった。地上波で放送されたのを録画して観てみた。ストーリーについては東京と田舎の高校生男女が入れ替わるのと、彗星がどうこう、というぐらいの前知識しかなかったので、まず「なるほどこういう話だったのか」という感想が大きかった。入れ替わりが思いのほか早い段階で途絶え、その後の展開が大きく動いていくため、退屈する間はなくテンポがいいと思った。

 眠っている間に見る夢というのは確かにおぼろげで、夢に出てくる人や物の名前、書いてある文章などは記憶に残りにくい。そういう実感を拡張して描いたともとれるので、名前を思い出せないというシナリオはすんなり納得できた。

 新海誠の作品は「秒速5センチメートル」をはじめ数作は観ているが、人物の描き方が自然になってきていていいと思う。キャラクターの表情も豊かで、背景の美しさと併せてアニメ映画としての良さが出ていた。

 しかしあのご神体、実際にあったらインスタ映えして観光客が殺到するだろうな、と思った。

 あと選挙に関してはいろいろと突っ込みたいポイントがあった。事前運動に饗応など。日本広しといえど、あれほど選挙管理委員会や警察が機能しない町長選挙って、実際にあるんだろうか。 

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「シン・ゴジラ」

 話題作として気になっていたし、ある意味で期待もしていた映画だった。地上波で放送されたのを録画して観た。いろいろと疑問点はあったが、それなりに面白かった。

 

 ゴジラを倒すために使われる兵器や鉄道などが、一つ一つ名前も明記されていた。使い方も含めて、各分野の愛好家たちにとってはたまらなく興奮するだろうなと思ったけど、それ以上の意味があるとは思えなかった。

 ……のだが、視聴してしばらくたってから友人に、「あれは現実に存在する兵器や道具を駆使してゴジラを倒す映画なのだ」と教わり、なるほどと納得できた。現実に存在する兵器や鉄道であることを明示する必要性はあったわけだ。

 

 ゴジラが口腔外科手術を受けているような画がユーモラスだった。 

シン・ゴジラ DVD2枚組

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「ブレードランナー」

 SF映画はあまり観ないが、最近続編が公開されたことや、大学院時代の恩師がどういった文脈でだったか言及していたのをずっと覚えていたことなどから、ようやく観てみることにした。アンドロイドやサイボーグが意志をもち人類の脅威となるという、いまではテンプレともなったシナリオの古典が、本作あるいは原作小説だとか、インターネット上で目にしたこともあった。

 よく作り込まれている世界観だと感じた。舞台となった2019年11月はまもなくで、作中の世界と現実との乖離は大きいにせよ、妙にアナログ的というか、相変わらず泥臭く生きる人間たちも描かれている部分や、レプリカントの、武器などがあれば辛うじて対抗できうる程度の強さなどに、不思議なリアリティがあった。ただし「強力わかもと」が繰り返し流れるのはちょっと遠慮願いたかった。

 それにしてもずっと大雨が降っていて、ちょっと陰鬱だった。必要だったのだろうか。

 続編は観るだろうか。

「薔薇の名前」

 中世の修道院を舞台にした原作小説の映画ということで、ずっと前から気になっていた。ただ題材は連続殺人事件の謎を解くサスペンスで、それほど興味を引かれていなかった。

 結果として、なかなか面白い映画だった。何よりも舞台美術が素晴らしい。実際の修道院も使っているそうだが、圧巻だったのは迷路のような図書館と、火事のシーンだった。あの迫力や没入感、そして喪失感は、この立派な舞台装置あってのものだったと思う。

 犯人が誰かという観点のみでいけばありがちな展開だったけれど、そこに、知の集積地という修道院の特性や、各宗派の対立構造、聖と俗の対立軸、個性が強い登場人物などが絡んでいたことで、なかなか見ごたえのある作品になったのだと思う。

 ただところどころ、映画で描かれている内容だけからでは不可解だったり不明瞭な点もあった。古本屋で小説だか関連書籍だかを買っていたと思うので、読んでみようかとも思った。

薔薇の名前 特別版 [DVD]

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「フランドル」

 とにかく最初から最後まで虚しさに覆われたような映画だった。生も死も、セックスもレイプも、殺すことも殺されることも虚しい。抑揚なく、ただ淡々としている。

 どの戦争に向けての招集なのかが分からなかった。製作された頃にフランスが参加した戦争は何だろう。イラク戦争かと思ったけど、フランスは反対を貫いていた。オランダは参加していたので、同じフランドル地方でもオランダが舞台なんだろうか。

 これまで観た戦争映画では「ノー・マンズ・ランド」が観た後の虚しさでいえば一番だったけど、この「フランドル」はまた違った虚しさだ。前者はまだ皮肉が利いていて、映画の狙いがよく見える。ラストシーンの虚無感や無力感は半端ではないが、まだ人の温度を感じる。

 一方のこの映画は、最初の農村の様子から寒々しく、陰鬱で、少女に告げない主人公の想いさえも熱を感じない。戦場は暑そうだが、相手が具体的に誰なのかも分からないため戦争の目的も、主人公たちが属する部隊のターゲットも不明で、やはりどこか冷めて観てしまうし、そういう描き方をしてあるんだと思う。最後の最後で主人公の感情が揺さぶられることによって、わずかに人間の温度みたいなものを感じ、ほっとする気持ちも抱くけれど、やはり戦争であまりに多くの犠牲があったことを顧みればやはり虚しい。

 そういう意味でよく作られた映画なのだと思う。カンヌ国際映画祭グランプリ。

 主人公の朴訥な感じが良かった。

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ノー・マンズ・ランド [DVD]

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