「シン・ゴジラ」

 話題作として気になっていたし、ある意味で期待もしていた映画だった。地上波で放送されたのを録画して観た。いろいろと疑問点はあったが、それなりに面白かった。

 

 ゴジラを倒すために使われる兵器や鉄道などが、一つ一つ名前も明記されていた。使い方も含めて、各分野の愛好家たちにとってはたまらなく興奮するだろうなと思ったけど、それ以上の意味があるとは思えなかった。

 ……のだが、視聴してしばらくたってから友人に、「あれは現実に存在する兵器や道具を駆使してゴジラを倒す映画なのだ」と教わり、なるほどと納得できた。現実に存在する兵器や鉄道であることを明示する必要性はあったわけだ。

 

 ゴジラが口腔外科手術を受けているような画がユーモラスだった。 

シン・ゴジラ DVD2枚組

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「ブレードランナー」

 SF映画はあまり観ないが、最近続編が公開されたことや、大学院時代の恩師がどういった文脈でだったか言及していたのをずっと覚えていたことなどから、ようやく観てみることにした。アンドロイドやサイボーグが意志をもち人類の脅威となるという、いまではテンプレともなったシナリオの古典が、本作あるいは原作小説だとか、インターネット上で目にしたこともあった。

 よく作り込まれている世界観だと感じた。舞台となった2019年11月はまもなくで、作中の世界と現実との乖離は大きいにせよ、妙にアナログ的というか、相変わらず泥臭く生きる人間たちも描かれている部分や、レプリカントの、武器などがあれば辛うじて対抗できうる程度の強さなどに、不思議なリアリティがあった。ただし「強力わかもと」が繰り返し流れるのはちょっと遠慮願いたかった。

 それにしてもずっと大雨が降っていて、ちょっと陰鬱だった。必要だったのだろうか。

 続編は観るだろうか。

「薔薇の名前」

 中世の修道院を舞台にした原作小説の映画ということで、ずっと前から気になっていた。ただ題材は連続殺人事件の謎を解くサスペンスで、それほど興味を引かれていなかった。

 結果として、なかなか面白い映画だった。何よりも舞台美術が素晴らしい。実際の修道院も使っているそうだが、圧巻だったのは迷路のような図書館と、火事のシーンだった。あの迫力や没入感、そして喪失感は、この立派な舞台装置あってのものだったと思う。

 犯人が誰かという観点のみでいけばありがちな展開だったけれど、そこに、知の集積地という修道院の特性や、各宗派の対立構造、聖と俗の対立軸、個性が強い登場人物などが絡んでいたことで、なかなか見ごたえのある作品になったのだと思う。

 ただところどころ、映画で描かれている内容だけからでは不可解だったり不明瞭な点もあった。古本屋で小説だか関連書籍だかを買っていたと思うので、読んでみようかとも思った。

薔薇の名前 特別版 [DVD]

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「フランドル」

 とにかく最初から最後まで虚しさに覆われたような映画だった。生も死も、セックスもレイプも、殺すことも殺されることも虚しい。抑揚なく、ただ淡々としている。

 どの戦争に向けての招集なのかが分からなかった。製作された頃にフランスが参加した戦争は何だろう。イラク戦争かと思ったけど、フランスは反対を貫いていた。オランダは参加していたので、同じフランドル地方でもオランダが舞台なんだろうか。

 これまで観た戦争映画では「ノー・マンズ・ランド」が観た後の虚しさでいえば一番だったけど、この「フランドル」はまた違った虚しさだ。前者はまだ皮肉が利いていて、映画の狙いがよく見える。ラストシーンの虚無感や無力感は半端ではないが、まだ人の温度を感じる。

 一方のこの映画は、最初の農村の様子から寒々しく、陰鬱で、少女に告げない主人公の想いさえも熱を感じない。戦場は暑そうだが、相手が具体的に誰なのかも分からないため戦争の目的も、主人公たちが属する部隊のターゲットも不明で、やはりどこか冷めて観てしまうし、そういう描き方をしてあるんだと思う。最後の最後で主人公の感情が揺さぶられることによって、わずかに人間の温度みたいなものを感じ、ほっとする気持ちも抱くけれど、やはり戦争であまりに多くの犠牲があったことを顧みればやはり虚しい。

 そういう意味でよく作られた映画なのだと思う。カンヌ国際映画祭グランプリ。

 主人公の朴訥な感じが良かった。

フランドル [DVD]

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ノー・マンズ・ランド [DVD]

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「さらば、わが愛 覇王別姫」

 1920年代から日中戦争を経て文化大革命後に至るまで、中国の伝統芸能・京劇の担い手が徐々に社会の激動に巻き込まれていく姿を描く。

 まず冒頭から映像の美しさが際立っている。アリーナにスポットライトが当たるさま、京劇の舞台や衣裳、化粧はもちろん、金魚鉢とか、炎の向こうに映る顔とか、ひとつひとつのシーンだけで作品が成立しそうなくらい美しい。

 ストーリーも、そのまま歌劇か何かになりそうなほどドラマティック。特に盧溝橋事件の前夜などは、レ・ミゼラブルにも通じるようなダイナミックな展開にのめり込んだ。

 変動する社会情勢に引きずられるように、3人の関係性や、それぞれが抱く京劇への姿勢が徐々に変化していくのも見ごたえがあった。「さらば、わが愛」は邦題だけど、ありふれた言葉ながらこの物語の本質をうまく突いている。その主体が必ずしも蝶衣だけを指すのではないことは、はっきりと分かる。

 最終盤、共産党員から自己批判を迫られた末の展開と役者の演技を観て、「こういう映画は日本では作られないよなあ」とついため息が出た。「ラストエンペラー」といい、中国では日中戦争を単純な反戦のメッセージとせず、その後の中国が怒涛のごとく変化し市民から皇帝までひとり残らず丸裸にしてしまう過程をしっかりと描く映画がたまに生まれ、それがものすごくいい作品になることがある。

 素晴らしい大河ドラマだった。気軽な気持ちでは「また観よう」とは思えないけど、文句なしに素晴らしいといえる映画の1本だと思った。

さらば、わが愛 覇王別姫 [DVD]

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「PK」

 マーティン・スコセッシ監督の「沈黙 ―サイレンス―」を「陰」とするなら、この映画は「陽」。宗教とは何か、信仰とは何かを明るく問いかける。宗教学の入門編にいい映画だと思う。

 面白いのは、PKが神の存在を信じているところ。信じているからこそ、あらゆる宗教を通じてどうにか神にアクセスしようとする。なりふり構わず無我夢中に神を追いかけていく姿は、他の誰よりも信心深く映る。皮肉が効いている。

 チャレンジングな映画だと思う。日本のように宗教がそこまで重要でない地域ではこの映画が生まれる土壌がないし、かといって信心深い国であればあるほど作りにくい映画だ。隣国のパキスタンとの関係性を映画の大事な要素の一つとして描いている点も、生半可じゃできないだろう。僕らがこの映画を観るのと同じような気持ちで、インドの人たちは観れたのだろうか。

 「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラニ監督とアミール・カーンが再びタッグを組んだ映画と聞いていたから、長く楽しみにしていてようやく観ることができた。「きっと、うまくいく」ほどの興奮と感動は味わえなかったものの、面白い映画だった。

 あとインド映画の割に踊るシーンは少なかった。もうちょっと踊ってもらっていい。

PK ピーケイ [DVD]

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きっと、うまくいく [DVD]

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「出会いなおし」

 この1作前の「みかづき」で本屋大賞2位となった森絵都の短編集。6編が収められているが、いずれもタイトルの通り「出会いなおし」が物語の重要なファクターとなっている。

 表題作の「出会いなおし」に始まり、「カブと塩昆布のサラダ」までは、森絵都らしい日常の妙味を切り取った作品だった。「カブと塩昆布のサラダ」は1ページ分丸ごと使うほどのカブ料理の羅列もあって、それはさすがに森絵都としては新しい手法だと思ったけれど、全体に通じる軽妙さはやはりいつもの森絵都だった。

 お、と思ったのは「ママ」から。状況を明確に説明せず、ただし物語への吸引力は強く、という書き出しにうならされた。その後「むすびめ」で森絵都らしい爽やかさを取り戻して、驚かされたのは最後の2編。「テールライト」と「青空」。

 

 「テールライト」は、舞台や時代、主人公の設定がそれぞれ異なる4つの掌編からなり、その全てが主人公の切なる祈りのシーンで幕を閉じる構成になっている。4本の関連はそれだけで、一読した限り、隠された設定で4本がつながっているということもないように思う。

 中でもハッとさせられるのが、2本目と4本目。2本目は闘牛の視点に、4本目はある施設の技術者という視点で描かれている。まず2本目は動物の視点というところが森絵都としては斬新だった。4本目は、物語を読み進めるうちに不穏な空気が漂い始め、それとともに主人公がどういう施設で働いているのか、また物語の舞台がいつの、どこなのかが、だんだんと明らかになっていく。明示されはしないけれど、ピンと来る。その終わり方は凄絶という言葉がしっくりくる。

 

 そして「青空」。爽やかなタイトが似つかわしくないほど、こちらもショッキングな作品。物語の軸を作っているのは、高速道路でのわずか数秒の出来事。主人公の絶妙な語り口で、読者を飽きさせず、また呆れさせもせずに物語に付いてこさせる。そして主人公と同じような緊張感を与え、主人公と同じように、命以上の何かまで救われた気持ちにさせる。そうした高い技術が詰まった1作だと思う。

 

 森絵都の短編でこれほど強い読後感を残すものって、これまであっただろうか。他の短編も読み返してみようかと思った。

出会いなおし

出会いなおし