「うなぎ」

 以前から日本人監督によるカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作として気になってはいたが、「万引き家族」が同賞を獲ってからはより観たい気持ちが強くなった。

 他人に心を開かない役所広司を水槽の中のうなぎと重ねて描いている。

 船大工を演じた佐藤允の演技は好きだった。声も昔の俳優っぽい頑強な感じが良かった。

 川原のUFOを呼ぶ装置を点灯させて歌い踊るシーンは、「ヒミズ」に通じるものを感じた。園子温監督が意図して作った舞台だろう。
 清水美沙がフラメンコを踊っていたのは、自らの母に似た部分を受け入れたということなのだろうけど、そこに至った理由はあいまいだった。子を宿し愛する人も見つけたことで母を受け入れたという理解でいいのだろうか。

 あと、手紙は実在したのかどうかを主人公が自らに問いかけるシーンがあったけど、仮に手紙が幻想だったとしても妻の浮気現場自体は直接目撃しているわけだから、そこを問う意味はあまりない気がする。
 むしろ目撃した浮気現場自体を問うのであればまだ理解できる。

 いずれにせよ、昔のカンヌのパルム・ドールってこんな感じなのかと、ちょっと拍子抜けした映画だった。
 比喩も直接的だし社会性もさほど高くない。
 仮に社会的な側面を挙げるとするならば主人公が出所者という点だろうけど、むしろ主人公は人懐っこい周囲によってあっという間に受け入れられた気がする。
 そういう意味では柄本明が嫉妬する気持ちも分からなくはないが、現代であればきっと、柄本明の視点で映画を撮ったんじゃないだろうか。

 

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