「7月4日に生まれて」

 ベトナム戦争の帰還兵が、下半身まひとなった体や過酷な戦争体験、信じていた祖国や周りの人々から裏切られた失望感から、激しく苦悩しながら生きる道を探る話。良い映画だと思う。 

 

 というのは表面的なストーリーにすぎなくて、もうちょっと俯瞰的に見ると、戦争体験が人々をいかに分断していくかという過程を描いた映画だと言える。「戦場を体験した者」と「戦場を体験していない者」の分断はもちろん、「戦場を体験した者」と「戦場を体験した者を抱える家族」の間にも、それぞれ違った種類の苦しみが分断を生む。さらには同じ戦場体験者同士でさえ、「自分の経験は誰よりも酷いものだった」「お前が経験したのは本物の戦場じゃない」といった強固な被害者感情が、体験や苦しみの共有を阻んでしまう。そうしてどんどん孤立が深まっていく。

 孤立した主人公の苦しみがようやく理解されるのは、戦場で誤って銃口を向けてしまった仲間の家族に会いに行った時。自暴自棄になるでもなく、全てを神や国家のせいにするのでもなく、静かに自分の過ちと向き合うことで、他人の理解を得ることができた。帰還兵に限らず、さまざまな要因で心に傷を負った人同士でこうして静かに体験を話し合うことで回復していくプログラムは、いまでこそよく知られるようになったけれど、当時はそうした仕組みがなかったのかな。

 また、分断を味わった人々が「なぜ私たちはこんなことになったのか」と考えたとき、行きつく先は「戦争こそが元凶だ」という答えになる。反戦デモに身を投じている人たちはそれぞれ、友人とか家族とか、あるいは自分自身が戦場に身を置いたことでさまざまな分断を味わった体験があり、戦争を憎むようになったのだろう。実際にそうだったかは別として、そう思わせる描き方をしていて、説得力があった。

 

 それにしてもオリバー・ストーンは、戦争を経験して風貌が激変してしまった人の描き方がうまい。プラトーンもすさまじかった。

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