「うなぎ」

 以前から日本人監督によるカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作として気になってはいたが、「万引き家族」が同賞を獲ってからはより観たい気持ちが強くなった。

 他人に心を開かない役所広司を水槽の中のうなぎと重ねて描いている。

 船大工を演じた佐藤允の演技は好きだった。声も昔の俳優っぽい頑強な感じが良かった。

 川原のUFOを呼ぶ装置を点灯させて歌い踊るシーンは、「ヒミズ」に通じるものを感じた。園子温監督が意図して作った舞台だろう。
 清水美沙がフラメンコを踊っていたのは、自らの母に似た部分を受け入れたということなのだろうけど、そこに至った理由はあいまいだった。子を宿し愛する人も見つけたことで母を受け入れたという理解でいいのだろうか。

 あと、手紙は実在したのかどうかを主人公が自らに問いかけるシーンがあったけど、仮に手紙が幻想だったとしても妻の浮気現場自体は直接目撃しているわけだから、そこを問う意味はあまりない気がする。
 むしろ目撃した浮気現場自体を問うのであればまだ理解できる。

 いずれにせよ、昔のカンヌのパルム・ドールってこんな感じなのかと、ちょっと拍子抜けした映画だった。
 比喩も直接的だし社会性もさほど高くない。
 仮に社会的な側面を挙げるとするならば主人公が出所者という点だろうけど、むしろ主人公は人懐っこい周囲によってあっという間に受け入れられた気がする。
 そういう意味では柄本明が嫉妬する気持ちも分からなくはないが、現代であればきっと、柄本明の視点で映画を撮ったんじゃないだろうか。

 

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「ルート・アイリッシュ」

 ケン・ローチ監督の戦争映画とはどんなものかと以前から興味を持っていたが、戦争映画というより物語の軸はサスペンスだし、舞台も戦場ではない。
 あのジャケットからは想像できない構成だったけれど、面白い映画だった。
 真相に近づくにつれて言葉を失っていった。

 登場する企業はイラクで何を事業としているのだろう。

 あと、「マッド・マックス」というのは実在の人物なのかという驚きもあった。今まで全く興味が湧かなかったが、「マッド・マックス 怒りのデスロード」もいつか観てみようかと思った。
 …が、「マッド・マックス 怒りのデスロード」はSFアクションで、この映画に出てくる「マッド・マックス」を描いた作品ではなさそうなので、あっという間に興味が失せた。

 

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「サラの鍵」

 以前からずっと気になっていた作品だった。
 弟のミシェルがどうなったのか、予告編だけでも引き付けるストーリーだが、生きているかもしれない「その後のサラ」を追うことで、最後まで飽きさせないシナリオになっている。

 実の息子でさえサラの過去についてほとんど何も知らずに生きているという設定に、歴史というのは、書き綴られ語り継がれないと失われていくものだなと改めて思わされた。

 

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「私の男」

 海のシーンにせよ濡れ場にせよ、二階堂ふみがここまで体を張った演技をしているとは想定外だった。
 それと合わせて、あどけない高校生から大人の女性まで見事に演じ分けている点も素晴らしい。
 地味な田舎の高校生が、都会の高級レストランであそこまで美しい女性に変貌するものかと、ただただ感心するばかりだった。

 二階堂の真骨頂があの濡れ場だろう。あからさまに不機嫌になったと思えば、自分に溺れる男と妖艶な視線を交わす。鮮血に塗れながら男の腰に乗る。
 大量の血液が天井から降ってくる中で抱き合う二人を引いて撮ったあの場面は、ものすごく印象深かった。あれを観るためだけにもう一度借りる価値さえあると思う。

 一方の浅野忠信も、二階堂ふみに溺れ、どんどんみすぼらしくみっともない男になっていく様子に説得力があった。二階堂ふみの成長と同じくらい老けを感じさせた。

 流氷のシーンも迫力があったし、まだ幼い花を引き取って真夜中の林の中を突き進む車も印象深かった。
 「映像化不可能」と言われる理由もよく分かった。
 でもあの映像の数々が、桜庭一樹の原作ではどこまで表現されているのかが気になる。あれらが監督の演出だとするならばすごい力量だと思う。

 

私の男

私の男

 

「ヒミズ」

 染谷将太二階堂ふみの演技が良かった。特に染谷将太が迫真の狂気を見せていた。こんなにいい俳優だったのかと驚かされた。

 園子温監督作品で鑑賞したのは3作目だと思うけど、たぶん人間を狂わせて救いのない結末に落とし込むのが基本路線なのだろう。
 その基本路線に照らせば、この作品は救いのある最後だった。主人公がまだ中学生だからか。
 その点では、これまで見た2作よりも好きかもしれない。でも印象の強さで言えば「冷たい熱帯魚」には及ばないと思った。

 

 

ヒミズ

ヒミズ

 

 

同じフレーズを繰り返すというのは、園子温監督が登場人物を追い詰めたり狂わせたりするときによく使う手法なのだな。

「酔画仙」

 偶然にも、同じ日に借りたオールド・ボーイと主演の俳優が同じだった。
 いい俳優だと思う。苦悩する演技などは、どこか庇護欲を抱かせるような愛嬌がある。

 日本の統治が絡むシナリオだったので、もう少し時代変化に翻弄されるかと思えば、期待したほどではなかった。

 美しく独創的な水墨画を楽しむ映画でもあったと思う。
 特に素晴らしかったのは鳥の大群の作品。モノクロの墨の濃淡だけであれほどの動きとリアリティをよく表現できるものだと感心した。

 突然の結末はちょっとあっけにとられた。

 

酔画仙 [DVD]

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「オールド・ボーイ」

 面白かった。導入の引力も強かったし、普段あまり観ないジャンルではあるけど、サスペンスとしての出来も良かったと思う。アクションにも迫力があった。
 ただ、相手がどうやってあれほどの仕掛けや設備を整えたのか、なぜそんなに財力があるのかなど、疑問点はあった。

 韓国映画ではよく近親者同士での性的な関係が描かれることが多いように思うけど、それは自分の作品選択によるものだろうか。
 その関係性に対する捉え方が、デスとウジンでは大きな差があるように思えて、観る側としてどっちに共感すべきか分からなかった。
 というより、どちらに対しても理解はできるものの、深く共感することはできなかった。

 何より驚いたのは、これが日本の漫画を原作としているということ。カンヌ国際映画祭審査員グランプリを取ったというけれど、日本では大きな話題になったのだろうか。