「出会いなおし」

 この1作前の「みかづき」で本屋大賞2位となった森絵都の短編集。6編が収められているが、いずれもタイトルの通り「出会いなおし」が物語の重要なファクターとなっている。

 表題作の「出会いなおし」に始まり、「カブと塩昆布のサラダ」までは、森絵都らしい日常の妙味を切り取った作品だった。「カブと塩昆布のサラダ」は1ページ分丸ごと使うほどのカブ料理の羅列もあって、それはさすがに森絵都としては新しい手法だと思ったけれど、全体に通じる軽妙さはやはりいつもの森絵都だった。

 お、と思ったのは「ママ」から。状況を明確に説明せず、ただし物語への吸引力は強く、という書き出しにうならされた。その後「むすびめ」で森絵都らしい爽やかさを取り戻して、驚かされたのは最後の2編。「テールライト」と「青空」。

 

 「テールライト」は、舞台や時代、主人公の設定がそれぞれ異なる4つの掌編からなり、その全てが主人公の切なる祈りのシーンで幕を閉じる構成になっている。4本の関連はそれだけで、一読した限り、隠された設定で4本がつながっているということもないように思う。

 中でもハッとさせられるのが、2本目と4本目。2本目は闘牛の視点に、4本目はある施設の技術者という視点で描かれている。まず2本目は動物の視点というところが森絵都としては斬新だった。4本目は、物語を読み進めるうちに不穏な空気が漂い始め、それとともに主人公がどういう施設で働いているのか、また物語の舞台がいつの、どこなのかが、だんだんと明らかになっていく。明示されはしないけれど、ピンと来る。その終わり方は凄絶という言葉がしっくりくる。

 

 そして「青空」。爽やかなタイトが似つかわしくないほど、こちらもショッキングな作品。物語の軸を作っているのは、高速道路でのわずか数秒の出来事。主人公の絶妙な語り口で、読者を飽きさせず、また呆れさせもせずに物語に付いてこさせる。そして主人公と同じような緊張感を与え、主人公と同じように、命以上の何かまで救われた気持ちにさせる。そうした高い技術が詰まった1作だと思う。

 

 森絵都の短編でこれほど強い読後感を残すものって、これまであっただろうか。他の短編も読み返してみようかと思った。

出会いなおし

出会いなおし