「私の男」

 海のシーンにせよ濡れ場にせよ、二階堂ふみがここまで体を張った演技をしているとは想定外だった。
 それと合わせて、あどけない高校生から大人の女性まで見事に演じ分けている点も素晴らしい。
 地味な田舎の高校生が、都会の高級レストランであそこまで美しい女性に変貌するものかと、ただただ感心するばかりだった。

 二階堂の真骨頂があの濡れ場だろう。あからさまに不機嫌になったと思えば、自分に溺れる男と妖艶な視線を交わす。鮮血に塗れながら男の腰に乗る。
 大量の血液が天井から降ってくる中で抱き合う二人を引いて撮ったあの場面は、ものすごく印象深かった。あれを観るためだけにもう一度借りる価値さえあると思う。

 一方の浅野忠信も、二階堂ふみに溺れ、どんどんみすぼらしくみっともない男になっていく様子に説得力があった。二階堂ふみの成長と同じくらい老けを感じさせた。

 流氷のシーンも迫力があったし、まだ幼い花を引き取って真夜中の林の中を突き進む車も印象深かった。
 「映像化不可能」と言われる理由もよく分かった。
 でもあの映像の数々が、桜庭一樹の原作ではどこまで表現されているのかが気になる。あれらが監督の演出だとするならばすごい力量だと思う。

 

私の男

私の男