「サラの鍵」
以前からずっと気になっていた作品だった。
弟のミシェルがどうなったのか、予告編だけでも引き付けるストーリーだが、生きているかもしれない「その後のサラ」を追うことで、最後まで飽きさせないシナリオになっている。
実の息子でさえサラの過去についてほとんど何も知らずに生きているという設定に、歴史というのは、書き綴られ語り継がれないと失われていくものだなと改めて思わされた。
「私の男」
海のシーンにせよ濡れ場にせよ、二階堂ふみがここまで体を張った演技をしているとは想定外だった。
それと合わせて、あどけない高校生から大人の女性まで見事に演じ分けている点も素晴らしい。
地味な田舎の高校生が、都会の高級レストランであそこまで美しい女性に変貌するものかと、ただただ感心するばかりだった。
二階堂の真骨頂があの濡れ場だろう。あからさまに不機嫌になったと思えば、自分に溺れる男と妖艶な視線を交わす。鮮血に塗れながら男の腰に乗る。
大量の血液が天井から降ってくる中で抱き合う二人を引いて撮ったあの場面は、ものすごく印象深かった。あれを観るためだけにもう一度借りる価値さえあると思う。
一方の浅野忠信も、二階堂ふみに溺れ、どんどんみすぼらしくみっともない男になっていく様子に説得力があった。二階堂ふみの成長と同じくらい老けを感じさせた。
流氷のシーンも迫力があったし、まだ幼い花を引き取って真夜中の林の中を突き進む車も印象深かった。
「映像化不可能」と言われる理由もよく分かった。
でもあの映像の数々が、桜庭一樹の原作ではどこまで表現されているのかが気になる。あれらが監督の演出だとするならばすごい力量だと思う。
「オールド・ボーイ」
面白かった。導入の引力も強かったし、普段あまり観ないジャンルではあるけど、サスペンスとしての出来も良かったと思う。アクションにも迫力があった。
ただ、相手がどうやってあれほどの仕掛けや設備を整えたのか、なぜそんなに財力があるのかなど、疑問点はあった。
韓国映画ではよく近親者同士での性的な関係が描かれることが多いように思うけど、それは自分の作品選択によるものだろうか。
その関係性に対する捉え方が、デスとウジンでは大きな差があるように思えて、観る側としてどっちに共感すべきか分からなかった。
というより、どちらに対しても理解はできるものの、深く共感することはできなかった。
何より驚いたのは、これが日本の漫画を原作としているということ。カンヌ国際映画祭で審査員グランプリを取ったというけれど、日本では大きな話題になったのだろうか。
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「嘆きのピエタ」
結構良かった。贖罪や悔悟、守るべきものができたが故の弱さなどテーマはありがちだったが、ある種のミステリー要素が加わることで見ごたえがあった。
「メビウス」と併せて考えることで、途中までキム・ギドク監督は母親へのコンプレックスが制作の根底にあるのかと感じてもいた。あるいは近親相姦や、息子の性器を母親が食べるという行為に何かの意味を付与しているのかとも思った。
ただ「母親」の正体が徐々に明らかになってくると、そのミステリー部分に思考を奪われた。面白かった。もしかしたらだが、主人公が障害者にしたのは兄弟だったのかもしれないとも思った。
また音楽が良かった。トラックが走る様子を俯瞰したラストシーンは、「サマリア」と重なるものを感じた。肉体そのものを画面上に見せずとも死を伝えていて、壮絶でありながら、まだ夜明け前の静かな街並みが美しいとも思った。
カン・ウンジンが魅力的だった。
「メビウス」
「サマリア」がとても良かったので、キム・ギドク監督の作品から漁ってみた。なかなか面白かったが、物語に空間的な広がりが欠けていたように思う。
セリフが一切ない。うめき声や悲鳴のみで斬新だった。
いろいろな意味での倒錯を描いた映画だった。浮気に始まり性器の切断、自慰と自傷もしくは「小さな死」としてのオーガズム、性器移植、近親相姦、男性器をめぐる執着など。イ・ウヌに一人二役を演じさせたのも、そうした倒錯を描くためかと思う。
セリフがない分、登場人物の気持ちや倒錯の構図を考えながら観るのは面白かった。
【追記】
……といったん書いたが、セクハラで告発されたキム・ギドク監督自身が釈明の中で、一人二役は元々母親役をあてていた女優の降板により、急遽決まったことだったと話していたようだ。これがそういういわく付きの作品であったことを忘れていた。
いずれにせよイ・ウヌの一人二役にはあまり違和感はなく、むしろ面白い試みだった。