「酔画仙」

 偶然にも、同じ日に借りたオールド・ボーイと主演の俳優が同じだった。
 いい俳優だと思う。苦悩する演技などは、どこか庇護欲を抱かせるような愛嬌がある。

 日本の統治が絡むシナリオだったので、もう少し時代変化に翻弄されるかと思えば、期待したほどではなかった。

 美しく独創的な水墨画を楽しむ映画でもあったと思う。
 特に素晴らしかったのは鳥の大群の作品。モノクロの墨の濃淡だけであれほどの動きとリアリティをよく表現できるものだと感心した。

 突然の結末はちょっとあっけにとられた。

 

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「オールド・ボーイ」

 面白かった。導入の引力も強かったし、普段あまり観ないジャンルではあるけど、サスペンスとしての出来も良かったと思う。アクションにも迫力があった。
 ただ、相手がどうやってあれほどの仕掛けや設備を整えたのか、なぜそんなに財力があるのかなど、疑問点はあった。

 韓国映画ではよく近親者同士での性的な関係が描かれることが多いように思うけど、それは自分の作品選択によるものだろうか。
 その関係性に対する捉え方が、デスとウジンでは大きな差があるように思えて、観る側としてどっちに共感すべきか分からなかった。
 というより、どちらに対しても理解はできるものの、深く共感することはできなかった。

 何より驚いたのは、これが日本の漫画を原作としているということ。カンヌ国際映画祭審査員グランプリを取ったというけれど、日本では大きな話題になったのだろうか。

 

「嘆きのピエタ」

 結構良かった。贖罪や悔悟、守るべきものができたが故の弱さなどテーマはありがちだったが、ある種のミステリー要素が加わることで見ごたえがあった。

 「メビウス」と併せて考えることで、途中までキム・ギドク監督は母親へのコンプレックスが制作の根底にあるのかと感じてもいた。あるいは近親相姦や、息子の性器を母親が食べるという行為に何かの意味を付与しているのかとも思った。

 ただ「母親」の正体が徐々に明らかになってくると、そのミステリー部分に思考を奪われた。面白かった。もしかしたらだが、主人公が障害者にしたのは兄弟だったのかもしれないとも思った。

 また音楽が良かった。トラックが走る様子を俯瞰したラストシーンは、「サマリア」と重なるものを感じた。肉体そのものを画面上に見せずとも死を伝えていて、壮絶でありながら、まだ夜明け前の静かな街並みが美しいとも思った。 

 カン・ウンジンが魅力的だった。

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「メビウス」

 「サマリア」がとても良かったので、キム・ギドク監督の作品から漁ってみた。なかなか面白かったが、物語に空間的な広がりが欠けていたように思う。

 セリフが一切ない。うめき声や悲鳴のみで斬新だった。

 いろいろな意味での倒錯を描いた映画だった。浮気に始まり性器の切断、自慰と自傷もしくは「小さな死」としてのオーガズム、性器移植、近親相姦、男性器をめぐる執着など。イ・ウヌに一人二役を演じさせたのも、そうした倒錯を描くためかと思う。

 セリフがない分、登場人物の気持ちや倒錯の構図を考えながら観るのは面白かった。

 

 【追記】

 ……といったん書いたが、セクハラで告発されたキム・ギドク監督自身が釈明の中で、一人二役は元々母親役をあてていた女優の降板により、急遽決まったことだったと話していたようだ。これがそういういわく付きの作品であったことを忘れていた。

 いずれにせよイ・ウヌの一人二役にはあまり違和感はなく、むしろ面白い試みだった。

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「冷たい熱帯魚」「恋の罪」

 長く気になっていた園子温監督の作品に挑戦しようと、この2作を選んで観てみたが、現在のところ、自分にはよく分からなかった。「愛のむきだし」「ヒミズ」あたりはまだ気になるのでいつか挑んでみたいけれど……。

 あと、どうやら自分は神楽坂恵の演技があまり好きではないらしいことが分かった。「恋の罪」の最後の最後あたりは良く見える瞬間もあったけれど、基本的に演技が自然と入ってはこなかった。

 

 どちらかといえば「冷たい熱帯魚」の方がまだ自分なりの観方ができた。圧倒的で醜悪な暴力によって追いつめられた主人公が形勢を逆転した瞬間、自分の中で生まれる爽快感に気づかされる映画かなと思った。終わり方も納得できた。

 良いなと思ったのは、吹越満とでんでんの演技。もはや台本があるとも思えなかったし、二面性にも説得力があった。

 あと、浴室で愛子の体から立ち上る湯気に生き物の温度が感じられてハッとなった。

 

 「恋の罪」。音楽は良かった。

 どんなに狂気に満ちた光景を目の前にしてもずっとひとりで大笑いしていたカオルが、なぜあの場面に限って突然怯え始めたのかが理解できなかった。

 カフカの「城」を読めば少しは分かるのだろうか。東電OL殺人事件についてちゃんと調べればもっと読み解けるんだろうか。 

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「サマリア」

 たいへん良かった。キム・ギドク監督の作品は「春夏秋冬そして春」を観たことがあったことに後から気づいたが、この「サマリア」をもっと早く観ていれば、監督への評価もだいぶん違っただろうなと思わされるくらい、いい作品だった。2004年、第54回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞している。

 

 ヨジンとジェヨンという女子高生2人が、旅行費用のために繰り返している援助交際から物語は始まる。視点はジェヨンとその父親ヨンギの2段階をふむが、スポットが当たる登場人物はヨジン、ジェヨン、ヨンギと3段階に推移していく。シナリオも実際に第3幕まで区切られている。

 ヨンギにスポットが当たり、物語も終盤に達する頃には、「なぜこんなことになったんだっけ」と振り返りたくなる。3人それぞれの狂気によって、それくらいダイナミックに物語は動いていくし、その場面、場面に食いついて観てしまう力のあるシナリオだ。軸となる登場人物は少ないにも関わらず、これほど「遠くへ来た」と感じる映画はあまり覚えがない。感心した。

 

 ラストシーンが非常に良かった。ジェヨンがたどたどしい手つきで運転する車を俯瞰するカットなどは、未熟さや頼りなさがとてもよく表れていて、胸が締め付けられた。あの別れ方も素晴らしい。映画史に残るラストシーンとして選ばれていいと思う。その場面に流れる音楽も非常に美しく、心に残った。

 ヨジン役のカク・チミンとジェヨン役のハン・ヨルムがいずれもあどけなく、非常に魅力的だった。

 「サマリア」というタイトルにも考えさせられた。「善意から相手を救おうとし、自分にできる最善を尽くして失敗に終わっても、罪には問われない」という「善きサマリア人の法」から取ったのだろうか。 

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サマリア [DVD]

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「君の名は。」

 話題作として気になっていたし、期待もしていた映画だった。地上波で放送されたのを録画して観てみた。ストーリーについては東京と田舎の高校生男女が入れ替わるのと、彗星がどうこう、というぐらいの前知識しかなかったので、まず「なるほどこういう話だったのか」という感想が大きかった。入れ替わりが思いのほか早い段階で途絶え、その後の展開が大きく動いていくため、退屈する間はなくテンポがいいと思った。

 眠っている間に見る夢というのは確かにおぼろげで、夢に出てくる人や物の名前、書いてある文章などは記憶に残りにくい。そういう実感を拡張して描いたともとれるので、名前を思い出せないというシナリオはすんなり納得できた。

 新海誠の作品は「秒速5センチメートル」をはじめ数作は観ているが、人物の描き方が自然になってきていていいと思う。キャラクターの表情も豊かで、背景の美しさと併せてアニメ映画としての良さが出ていた。

 しかしあのご神体、実際にあったらインスタ映えして観光客が殺到するだろうな、と思った。

 あと選挙に関してはいろいろと突っ込みたいポイントがあった。事前運動に饗応など。日本広しといえど、あれほど選挙管理委員会や警察が機能しない町長選挙って、実際にあるんだろうか。 

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